市長交際費支出基準、深まる不信と謎
情報開示請求に基づき「正規版」入手
10月17日付公開の記事「市長交際費支出基準、改ざん掲載」でお伝えした取手市長交際費支出基準(以下「支出基準」と略記)の改ざん問題で、ポチの情報開示請求に対し、取手市は11月4日、支出基準の「正規版」とされる文書を開示しました。入手した文書をスキャンしたPDF版とJPEG版は下記の通りです。
今回開示された支出基準「正規版」を、取手市公式ホームページに掲載されていた支出基準「改ざん版」と見比べると、「弔慰」「見舞」それぞれの規定内容がまったく異なることが分かります。
弔慰対象に自治会長や「市長が必要と認めた」人も
まず「弔慰」を見比べてみます。その支出範囲は「改ざん版」で
取手市特別職で非常勤の者、地元の国会・県議会議員、関係市町村の首長並びに議長及びその親族に対して支出できる。
となっていました。「地元の国会・県議会議員」「関係市町村の首長並びに議長」というだけで、「地元」「関係市町村」は具体的にどこなのか特定していません。
しかし、「正規版」では「県内14市町村」「参議院議員(市内在住)」「県議会議員(取手市選出)」などとリスト化されています。加えて、改ざん版にはなかった「自治会会長本人」や、市長お手盛り支出を招く恐れがある「その他(市長が特に必要と認めたとき)」も規定されています。
「市職員」記載に透ける市民軽視「上から目線」
このリストには一見不可解な部分があります。市役所内部に位置づけられる「市職員(管理職・一般職・再任用)」をわざわざ掲げ、「—」記号を並べ「※互助会にて対応」と注記しているのです。無用なものをあえてリストに入れているのはなぜなのでしょうか?
「市長交際費の支出状況」ページでは交際費について「市長等が市を代表し、行政の円滑な執行を図るため、外部の個人や団体の皆様との交際に要する経費」と、外部向け支出と明言しています。市議会や行政委員会は市執行部から独立した機関なので、市議や行政委員を一応「外部」と見なすこともできます。
市職員のリスト掲載は次のように推理すれば、つじつまが合います。すなわち、この「正規版」はあくまで内部向け運用文書として作成されたもので、市民に公開するつもりなどまったくなく、市民が見るホームページには別に作った「改ざん版」でも出しておけばいいのだと…。「由らしむべし、知らしむべからず」的な「上から目線」を端的に物語っています。
見舞い条件「療養」を「入院」に改ざんし掲載
続いて「見舞」を見比べてみます。その支出範囲について「改ざん版」では
病気等入院、罹災等の見舞いについて、取手市特別職で非常勤の者、地元の国会・県議会議員、並びに関係市町村の首長及び議長に対して支出できる。
と記載されていました。「弔慰」と同様に「地元」「関係市町村」というだけで具体的な対象者が特定できません。しかし「正規版」では「参議院議員(市内在住)」「県議会議員(取手市選出)」「県内14市町村」など支出範囲を具体的に特定しています。市長お手盛りを招く恐れのある「その他(市長が特に必要と認めたとき)」もしっかり再登場します。
また「正規版」では病気療養と自宅火災に支出条件が区分され、これに対応するかのように「改ざん版」では「病気等入院」と「罹災等」が挙げられていました。しかし、療養はいうまでもなく、入院と同じ意味ではなく、風邪の場合のような自宅療養も含まれた言葉です。「療養」では支出条件が甘すぎるので、厳しく見せかけるため「入院」に言い換えてホームページに掲載していたのでしょうか。理由はなんであれ、支出条件を勝手に変更しており、明らかな改ざんです。
消された「手土産3000円以内」の謝礼規定
さらに「正規版」には「謝礼」という項目が記載されながら「改ざん版」では消えていました。「正規版」では「謝礼」を「訪問時・来庁時の手土産は必要が生じたとき最小限に支出する(ただし官公庁を除く)。3000円以内」と説明しています。
「訪問時・来庁時」「必要が生じたとき」とは具体的にどういうケースを想定し、どのような人を対象に支出されるのかまったくの謎です。このようにあいまいな規定に基づいて交際費が適正に支出できるのか甚だ疑問です。支出基準「正規版」「改ざん版」のほかに、さらに裏の「極秘版」が存在するのではないかと不信を抱かざるを得ません。
勝手な想像も膨らみます。市長が企業などを視察する時にはやっぱり取手銘品の「奈良漬」を持っていくのでしょうか? 来庁した著名人にはキリンビール取手工場製「一番搾り」でも持たせてあげるのでしょうか? あるいは日清カップヌードルかしらん? その都度決済し購入してはいられないので、市長室のキャビネットあたりに買い置きしてあるのでしょうか? 賞味期限切れになったらどうするのでしょうか?
「謝礼」名目の支払いがこれまであったのか、誰にどのようなものを手土産としたのか、そしてこれらの支払いが公表されているのか、取手市公式ホームページの「市長交際費の支出状況」内を検索しましたが、2016(平成28)年4月分からこれまでに、まったく見当たりませんでした。
支出基準の改ざん版から「謝礼」の項目が消え、支出した形跡すら見当たらない。何か都合の悪いことを「隠ぺい」しているのではないかとの批判を浴びても仕方ありません。
支出基準「簡略化」は苦し紛れの弁明
市長交際費を所管する市秘書課は情報開示請求前の10月11日、ポチの問い合わせに対し「HPにおける記載は、わかりやすさのため文字数削減の観点も含め、簡略化した」とメールを通じて弁明しました。11月4日の文書開示の席でも、同席した市秘書課長は同じ弁明を繰り返しました。
しかし、以上見てきたとおり、取手市公式ホームページに掲載された「支出基準」は、分かりやすく「簡略化」されたものと呼べるものではなく、明らかな改ざんです。支出基準の「正規版」をPDFにしてホームページ内に掲載することは今の時代たやすいことです。「わかりやすさのため文字数削減の観点も含め、簡略化した」との弁明は苦し紛れといわざるを得ません。
今回の支出基準改ざんは、市長交際費支出のチェックを不当に難しくし、市民の知る権利を侵害し、市政に深い疑念を抱かせる重大な背信行為です。
◇ ◇
なぜ改ざん版をホームページに掲載するに至ったのか、その理由や経緯も知りたいと、今回の請求内容は
取手市長の「交際費支出基準」、および制定や改定に関連する、すべての文書(議事録を含む)・電磁的記録(メール・市役所ホームページを含む)
と、現行の支出基準にとどまらず、支出基準の制定当時からこれまでの改定経緯が分かる文書類の開示も併せて請求し、開示されています。これら開示文書や分析は別の投稿であらためてご紹介したいと思います。
※2021年11月16日…「市長交際費支出基準」ページが11月11日、「改ざん版」から「正規版」に基づく内容に差し替えられました。「改ざん版」との混同を避けるため、埋め込みURLを削除しました。また、一部語尾を過去形に手直ししました。差し替え前の「改ざん版」はこちらで確認できます。