市長団体の業者寄付受領「違反ない」と政倫審強弁

調査結果書の写し、ポチに送付

藤井信吾取手市長の政治団体「取手新時代をひらく会」(以下「ひらく会」)が茨城県南水道企業団(企業長・藤井市長、以下「企業団」)の発注業者から多額の寄付を受け取っていた件について、市政治倫理審査会(高久匡志会長、以下「審査会」)は2021年12月22日、政治倫理基準(以下「倫理基準」)に違反していないとする調査結果書をまとめ、その写しが調査請求人のポチに送られてきました。

ポチが調査請求に至った詳しい経緯についてはこちらの投稿をご覧ください。なお、ポチの投稿では、ひらく会に多額の寄付した方を「Aさん」、企業団から工事を受注した水道工事会社を「M社」と表記していますが、調査結果書ではそれぞれ「寄附者甲」「乙株式会社」となっています。法人登記によると、M社は稲敷市内に本社があって取手市内に取手支店を開設しています。またAさんは稲敷市内の在住で、M社の代表取締役社長を務めています。

調査結果書はA4判17ページ建てで下記6項目から構成されています。これら6項目の後ろに、2017(平成29)年5月から2021(令和3)年11月かけて企業団が執行した指名競争入札のうち、M社が参加した26回分をまとめた「別紙入札結果一覧」と企業団の各種規程が添えられています。

1調査請求の対象となった者
2調査請求の概要
3調査の方法
4調査結果(結論)
5調査結果(本文)
6付言

調査請求対象の市長への聴取スルー

「1調査請求の対象となった者」はもちろん「藤井信吾取手市長」であり、「2調査請求の概要」はポチが提出した「調査請求書」の概要版です。そして「3調査の方法」へ読み進んでポチは大きく落胆しました。以下に全文転載しますが、わずか250字程度です。

当審査会では,条例第11条第2項の規定に基づき,次の各当事者に対して文書により調査を依頼し,各当事者からの回答を踏まえ,当審査会として議論した。

なお,当審査会の調査は,いわゆる捜査とは異なり,調査に対する回答が義務付けられているものではないが,当審査会の調査に必要な範囲で行っているものであり,当審査会として判断するために必要であるとして,可能な限りの協力を要請した。

(文書による調査を依頼した者)
ア取手新時代をひらく会(代表:藤井信吾市長)
イ寄附者甲
ウ乙株式会社
エ茨城県南水道企業団(企業長:藤井信吾企業長)


調査方法の厳密さが調査結果を大きく左右するにもかかわらず、①倫理基準違反が疑われている当人から直接事情を聴いていない②関係者に送った調査依頼書が明らかにされていない③関係者からの回答書も添付されていないのです。

①をめぐっては、市政治倫理条例第11条(取手市政治倫理審査会の設置)の第8項で「市長等及び議員は,審査会の調査及び審査に対し誠実に協力しなければならない。」と定められており、藤井市長はそもそも調査に全面協力する義務があります。Aさん(寄附者甲)から多額の寄付を受け取った経緯や認識について、審査会はためらうことなく、藤井市長本人から事情を聴くべきでした。本人調査をあえて行わなかったことは調査の客観性や信ぴょう性に重大な疑念を残し、藤井市長は説明責任を放棄しているといわざるを得ません。

回答詳細なく信用乏しい関係者調査

②と③をめぐっては、調査対象者にどういう内容で質問したのか、それに対して対象者がどう回答したのか、その全貌を明らかにしないアンケート調査はそもそも信用に値しません。関係者からの回答とみられる文言が「5調査結果(本文)」内でいくつか引用されています。しかし、審査会の見立てに沿って回答の一部を都合良く「つまみ食い」的に引用している疑いも拭えません。審査会による今回の調査全般について、調査内容や回答内容、議事録などの情報を開示するよう別途請求しています。ほとんど非開示となる恐れもありますが、開示結果を受けて、あらためて考えたいと思います。

さらに付け加えれば、「当審査会として議論した」とあるだけで、いつどこで審査会の会合を開き、どのように調査結果書を作成議決したのか基礎的な手続きデータがありません。政治倫理条例の規定により短期間で調査し結果をまとめる必要があるとはいえ、コピー貼り付けを思わせる繰り返し表現や分かりにくい符番方法を含めて、審査会と事務局・市総務課の文書構成能力を疑わざるを得ません。

続く「4調査結果(結論)」では「当審査会において調査した結果,本件調査請求に係る案件は,条例第4条第5号前段ないし後段のいずれの政治倫理基準にも該当するとはいえないと判断する。」との審査会の判断が示され、その根拠を「5調査結果(本文)」で展開しています。「条例第4条第5号前段ないし後段のいずれの政治倫理基準」というのは、取手市政治倫理条例第4条第5号の下記条文です。

(5)政治活動に関して会社その他の団体(政党及び政治団体を除く。)から寄附を受けないものとし,その後援団体についても政治的又は道義的批判を受けるおそれのある寄附を受けないこと。

取手市政治倫理条例第4条第5号


この第5号の前段が「政治活動に関して会社その他の団体(政党及び政治団体を除く。)から寄附を受けない」、その後段が「政治的又は道義的批判を受けるおそれのある寄附を受けない」となります。

おさらいになりますが、ポチが抱いた疑念は次の2点です。

疑念Ⅰ)Aさん(寄附者甲)はM社(株式会社乙)の代表取締役社長です。加えて、「ひらく会」は収支報告書でAさんの住所欄に実際の住所でなく、M社の本店所在地を繰り返し記載しました。これらのことから、Aさんからの寄付は実質的にはM社からの企業献金で、倫理基準第5号の前段に反するのではないのか。

疑念Ⅱ)M社の取手支店は2017(平成29)年5月31日行われた企業団の指名競争入札に参加して水道管敷設替工事を910万円(税込み)で落札しました。その直後の6月19日にAさんは「ひらく会」に99,000円を寄付していました。時期的に考えて、この寄付は実質的に「受注の謝礼」ではないのか。そして、同会代表の藤井市長にとって、この寄付を受領したことは、倫理基準第5号の後段に反するのではないのか。

稲敷市民からの寄付を踏まえた調査要望

これらの疑念の根拠を補強するため、2021年11月22日開かれた審査会でポチは調査請求人として発言し、Aさんが取手市民でないことを踏まえて調査してほしいと要望しました。国内どこの自治体の首長に対しても個人として金銭支援することは確かに自由です。しかし、取手市民でないAさんが藤井市長の政治団体に対し多額の寄付を行う意味合いとしては、浅薄ながら、企業団発注工事の受注拡大に向けたM社の営業的側面しか思い浮かばないのです。

疑念Ⅰについて審査会は「ウ結論」(調査結果書7〜8ページ)で、Aさん名義による三度の寄付は企業献金ではなく、個人寄付であり、倫理基準に反しないとの判断を示しています。

Aさんは審査会の調査に対し「個人的な寄附であること,また,寄附者甲自身の個人資産から,私的な応援の意図をもって寄附をした」(同4ページ)と回答したとされています。ポチが考慮を求めた「Aさんは取手市民でない」という事情について調査請求書は言及を避け、Aさんが稲敷市民であることすら伏されており、本当に「私的な応援の意図」で寄付したものなのか疑念を深める調査請求書になってしまいました。

「住所確認せず」受領、間抜けな資金管理

また疑念Ⅰの強い根拠であったAさん住所欄へのM社所在地記載について「ひらく会」は審査会の調査に対し、下記の趣旨の回答をしたとされています。

寄附金を受領した際に寄附者甲の住所を確認せず,後に領収書の送付先を寄附者甲に聞いたところ会社住所を送付先として指定されたため確認不足のまま収支報告書に会社住所を記載した


「住所」は「生活の本拠である場所」(『広辞苑』)という意味ですから「会社住所」という表記はあり得ないのに審査会6委員や事務局の市職員の誰も気付かなかったのかという「重箱の隅」的な指摘はしませんが、住所をしっかり聞いてなかったという「ひらく会」の弁明はにわかに信じられないものがあります。なぜなら年5万円を超える多額寄付者の氏名、金額、寄付日、住所、職業はすべて収支報告書に記載しなければならないからです。そのため、多額寄付者から献金を受領する際は、これら情報を確実に収集記録することは政治団体の基本的な動作なのです。

多額のお金が寄付されるのにあたって、Aさんの氏名と職業「代表取締役社長」は確認したものの、Aさんの住所だけ聞き漏らしてしまったということでしょうか。藤井市長を含め「ひらく会」とAさんとの関係は住所の確認を忘れさせてしまうほど親密なものだったのではないかとの妄想すら膨らみます。

もし住所確認を怠っていたことが事実だとすれば、間抜けな政治資金の扱い方であり、「ひらく会」代表である藤井市長も政治資金の管理責任が厳しく問われます。収支報告書の最終ページに添えられた「宣誓書」にある「真実に相違ありません」との宣誓の文字も空しく薄れるばかりです。

「批判の恐れある寄付」の定義示さずシロ判断

続いて疑念Ⅱについては「(ウ)政治的又は道義的批判を受けるおそれのある寄附に該当するか」(同9ページ)で次のように判断を示しています。

別紙入札結果一覧番号1~26の最終業者選定に際して市長は規程上最終決定権を有しておらず,かつ市長が別紙入札結果一覧番号1~26に関与をした形跡も認められず,市長が乙株式会社に対し便宜を図った事実や影響力行使の事実もうかがわれないのであるから,そのような市長に対して寄附者甲が寄附をした第1寄附が,客観的に外部からみて政治的又は道義的批判を受けるおそれがある寄附であるということはできない。


まず、議論の進め方として、倫理基準第5号後段にある「政治的又は道義的批判を受けるおそれのある寄附」の具体的な定義や解釈がそもそも示されていません。①藤井市長に業者選定の最終権限がない②入札関与の形跡がない③M社への便宜や影響力行使もうかがわれない、だからAさんからの寄付受領は「政治的又は道義的批判を受けるおそれのある寄附を受けない」とする倫理基準に反しないと判断する流れになっています。

倫理基準を定める政治倫理条例第4条の第1号から第5号まで全文をいま一度確認してみます。

第4条 市長等及び議員は,次に掲げる政治倫理基準を遵守しなければならない。
(1) その権限又は地位による影響力を不正に利用していかなる報酬等も授受しないこと。
(2) 次に掲げる者が行う公共工事,業務委託,物品納入及び使用資材の購入の契約並びに指定管理者の指定(以下「契約等」という。)に関し,特定の業者を推薦し,又は紹介するなどの有利な取り計らいをしないこと。ただし,市長等及び議員の職務上の正当な権限に属する行為を除く。
ア 市
イ 市が設立した公社
ウ 市が資本金,準備金その他これらに準ずるものを出資している法人
エ 市の行政運営と密接な関連を有する団体として規則で定めるもの
オ 地方自治法(昭和22年法律第67号。以下「法」という。)第284条第1項に規定する地方公共団体の組合のうち,市が構成団体となっているもの
カ 地方公営企業法(昭和27年法律第292号)第2条第1項に規定する地方公営企業のうち,市が構成団体となっているもの
(3) 市職員の採用に関して推薦又は紹介をしないこと。
(4) 市職員の公正な職務執行を妨げ,又はその権限若しくは地位による影響力を不正に行使するよう働きかけをしないこと。
(5) 政治活動に関して会社その他の団体(政党及び政治団体を除く。)から寄附を受けないものとし,その後援団体についても政治的又は道義的批判を受けるおそれのある寄附を受けないこと。

取手市政治倫理条例第4条


ご覧の通り、入札への関与や特定業者への便宜や影響力行使に関する倫理基準は既に第1号と第2号で規定されています。ポチが抱いている疑念Ⅱは、第1号と第2号とは別に定められている第5号に基づくものです。しかし、審査会は第5号にある「政治的又は道義的批判を受けるおそれのある寄附」の定義や解釈を示さないばかりか、第1号と第2号に抵触していないのだから第5号への抵触もないのだと結論づけている形になっています。文字通り「こじつけ」「牽強付会」の論理展開です。

市民常識で判断すべき業者寄付受領

第1号から第5号までの各倫理基準を導き出す基になっている政治倫理条例第2条(市長等及び議員の責務)は第2号で「品位と名誉を損なうような一切の行為を慎み,その職務に関し不正の疑惑を持たれるおそれのある行為をしないこと。」と市長や市議に命じています。この条文にいう「不正の疑惑を持たれるおそれのある行為」の定義や解釈も考慮しながら「政治的又は道義的批判を受けるおそれのある寄附」とは何なのかを具体的に示すべきだったのです。

その上で、落札受注したばかりの業者から多額の政治献金を受領する行為が果たして妥当なのか、取手市政や企業団に対する住民の信頼を損なうことにつながる行為ではないのか、市民常識をベースに議論し判断すべきだったのです。「政治的又は道義的批判を受けるおそれのある寄附」にある「批判」の主語は言うまでもなく市民なのですから。

さらに審査会は調査結果書2ページで「当審査会の調査は,いわゆる捜査とは異なり」と断っておきながら、市長の権限や特定業者への便宜など不正の有無をあたかも捜査機関のごとく微に入り細に入り調べ上げているのは自家撞着です。不正不法が疑われる寄付ならば、ポチは審査会に調査請求せずに水戸地方検察庁か茨城県警捜査二課、あるいは取手警察署に告発しています。

まして、ポチが使った「受注の謝礼」という表現について、審査会は不正な行為と絡んだ金のように解釈して、権限や業者への有利な取り計らいなどがなかったから「受注の謝礼」ではないと判断しています。しかし「謝礼」はふつう「感謝の意味で人に贈る物や金」という意味であって、何かの見返りとして不正供与される金という意味合いで使われることはまれです。自ら経営するM社が企業団の工事を受注できた感謝の印として、Aさんは発注元の代表である藤井市長に政治献金したのではないかと推認することは不自然で難しいことでしょうか。

荒唐無稽な調査結果、審査会のあり方に由来か

今回の審査会は、倫理基準違反なしという結論が先にあって議論を無理やり推し進めたのではないのかと強く疑わざるを得ません。こうした荒唐無稽な調査結果は審査会の組織と運営のあり方に由来していると推測できます。審査会の公正さが果たして保障されているのか確認すべく、ポチは調査結果書の受領に先立って、審査会の委員選任方法などについて情報開示を請求しています。審査会の向こうを張って、ポチは開示内容を全面公開しつつ、市民とともに政治倫理と審査会のあり方について考えていきたいと思います。

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