市長の政治団体、受注業者から多額寄付
藤井市長PRサイトが見当たらない
取手で子ども時代を過ごし、約40年ぶりに舞い戻ってきたポチにとって、特に取手駅周辺の変わりように驚きと感慨を覚えました。同時に、駅前再開発を熱心に進めている藤井信吾市長が鹿児島市出身でありながら、なぜ取手市長になったのだろうかと興味を持ちました。
インターネット上で手当たり次第、検索してみました。藤井さんの政治PRサイト「藤井信吾のホームページ」は閉鎖されていました。支持基盤が盤石になって不要ということでしょうか。世界的なアーカイブサイトWayBackで一部が確認できる程度でした。市長に初当選した2007(平成19)年当時のデータなどは見つかりませんでした。
県選管HPに3年分の収支報告書
気を取り直して「藤井信吾 政治団体」というキーワードなどでしつこく検索するうちに、藤井市長が代表を務める政治団体「取手新時代をひらく会」の収支報告書を茨城県選挙管理員会(県選管)ホームページの「政治資金収支報告書の公表」で見つけました。「取手新時代をひらく会」は藤井市長向けの政治資金の拠出を受けられる「資金管理団体」に指定されているようです。
収支報告書は、政治団体や政治家の政治活動が「国民の不断の監視と批判の下」(政治資金規正法第1条)に行われるようにと公開されているものです。この収支報告書をつぶさにチェックすることは「取手市民の番犬」を誇称するポチにうってつけです。
「取手新時代をひらく会」の収支報告書は今年10月現在、平成29年分、平成30年分、令和元年分の計3年分が県選管のホームページにPDF形式で公開されています。令和2年分は来月にも公開される見込みです。インターネットを使えば誰でも自由に見ることができ、水戸の茨城県庁に出向けば県選管で文書を閲覧することも可能です。
藤井市長の政治活動を金銭面で熱心に支援している人はどういう方々なのだろうと、収支報告書のページをめくり、「個人からの寄附」欄に目を凝らします。この欄には、年間5万円を超える多額寄付をした人の氏名、金額、寄付日時、住所、職業を記載しなければなりません。
多額の献金によって政治がねじ曲げられていないか、国民が点検できるようにと、公益性が優先され、個人名が公表されます。ただし5万円以下の人は「その他」と扱われ、氏名や住所など個人情報が公表されません。
ここであらかじめ、お断りをしておきます。この文章に登場する個人や企業・団体は公人や公的機関でない場合、ネットの拡散力や消去困難性を考え、匿名あるいは一部省略したり、文書を一部墨消したりしています。ただし、収支報告書や法人登記など公的文書を直接閲覧すれば、実際の氏名や住所、会社名や役員名などを知ることは可能です。
平成29年分の収支報告書には3人の多額寄付者が記載されています。藤井市長自身が10万8000円を、「取手市吉田…」の団体役員Sさんが9万9000円を、「稲敷市江戸崎…」の代表取締役社長Aさんが9万9000円をそれぞれ寄付しています。
平成30年分には2人の多額寄付者が記載されています。藤井市長自身が10万8000円を、「取手市井野台…」の代表取締役社長Eさんが9万9000円をそれぞれ寄付しています。
令和元年分には3人の多額寄付者が記載されています。再びAさんが10万円と9万9000円の2回計19万9000円を、藤井市長自身が10万8000円を、再びEさんが9万9000円をそれぞれ寄付しています。Aさんは藤井市長より熱心に寄付しています。
この3年間の寄付を合計すると、藤井市長自身が32万4000円、Aさんが29万8000円、Eさんが19万8000円となっていて、AさんとEさんが藤井市長を熱心に金銭支援していることが分かります。
稲敷市内の水道工事業者から多額寄付
AさんとEさんの職業欄はいずれも「代表取締役社長」となっていましたが、Aさんは住所欄に「稲敷市江戸崎…」と記載されていることが目を引きます。取手市長選で一票を投じられないのに、なぜ多額の献金をするのだろうと素朴な疑問が湧きます。もちろん、市外在住者が寄付しても問題ありませんが、やっぱり気になります。
Aさんがどのような会社で代表取締役を務めているのか分かれば、その疑問が解けるかもしれません。収支報告書に記載されていたAさんの氏名と住所を使ってネット検索したところ、それとおぼしき会社M社が出てきました。M社は水道関連工事などを手掛けているようでした。
もしかして、取手市から工事を受注しているかもしれないと、考えました。取手市役所のホームページでは入札予定や結果をその都度公表しているので、トップページ右上にある検索窓にM社名を入力して検索してみます。しかし、検索結果にM社の入札情報はまったく出てきません。取手市から工事を受注していないのか…。
茨城県南水道企業団の工事落札
ここで、取手市が水道事業を直接行っていないことにはたと気付きました。M社が取手市から水道関連工事を受注できるわけがありません。取手市は龍ケ崎市、牛久市、利根町と共同で水道を供給する一部事務組合「茨城県南水道企業団」(ヘッダー写真が事務所)を設置しているのです。この企業団のトップである企業長は2016(平成28)年から現在まで、藤井市長が務めています。
今度は茨城県南水道企業団ホームページを開いて、トップページ右上にある検索窓にM社名を入れて検索しました。
すると、M社名が掲載されているページのタイトルがずらりと表示されました。これらページをつぶさに調べてみると、M社は2017(平成29)年5月から2021(令和)3年2月にかけて、企業団発注の配水管布設替工事5件を落札していました。これら5件の落札額合計は1億1648万円(税別)に上っていました。
ここまで来て、藤井市長が企業長を務める「茨城県南水道企業団」の水道工事を落札していた業者が藤井市長の政治団体に多額の寄付をしているらしいということが浮かび上がりました。
当然、市民常識として多くの疑念を抱かざるを得ません。
・取手市民でない人が取手市長になぜ寄付しているのか?
・政治信条への共感などではなく工事の見返りではないのか?
・市長の政治団体が受注業者から寄付を受け取っていいのか?
・水道料金が取手市長の政治団体に還流しているのか?
身近な政治家に対し、こうした疑念を抱いたとき、一般市民はどうすれば良いのでしょうか?
・警察や検察に告発する→該当法令を知らないし手続き面倒
・新聞記者に取材してもらう→そもそも新聞を読んでない
・議員に調べてもらう→定数削減で身近な議員がいなくなった
・総務省に問い合わせる→法令解説聞いて終わりそう
・政治家に直接ただす→小心者で勇気ない
一般市民にとって敷居が高くて、コロナ禍の折、面倒くさそうです。まかり間違って行政べったりのマスコミか議員にでも話してしまったら、情報が筒抜けとなったり、うやむやにされたりする恐れもあります。自宅で独り義憤にまみれて、のたうち回るしかないのか…。
取手市政治倫理条例に寄付規制基準
というのは半分冗談にせよ、取手市では「政治倫理条例」が施行され、市長や市議が順守すべき「政治倫理基準」が規定されていました。
政治倫理基準は計5号が規定されています。各号を分かりやすく略記すると、下記の通りです。
①権限や地位による影響力を不正利用して報酬等を授受しない
②公共工事、業務委託、物品納入、使用資材購入、指定管理者指定で、特定の業者を推薦したり、紹介したりするなど有利な取り計らいをしない
③市職員の採用で推薦や紹介をしない
④市職員の公正な職務執行を妨げたり、その権限または地位による影響力を不正行使するよう働きかけたりしない
⑤政治活動で会社その他の団体(政党・政治団体を除く)から寄付を受けないものとし、その後援団体も政治的または道義的批判を受けるおそれのある寄付を受けない
基準違反の疑い、市民に調査請求権
市長や市議がこれら基準に違反している疑いがあるときは、市民の権利として、資料などを添えて調査請求できると定めています。市民からの調査請求を受けて、政治倫理審査会が市長から事情を聴取したり、資料提出を求めたりして調査します。
政治倫理審査会は有識者3人と公募市民3人で構成され、その会議は原則公開されます。条例違反ありとの結論が出れば、市広報などで公表されます。市長は請求日から60日+7日の計67日以内に、調査結果を請求者に送付する必要があります。
とまれ、藤井市長の政治団体が受注業者から多額の寄付を受けていたことは、上記基準の各号のうち、最後の第5号「政治活動で会社その他の団体(政党・政治団体を除く)から寄付を受けないものとし、その後援団体も政治的または道義的批判を受けるおそれのある寄付を受けない」に抵触する可能性が最も高いと言えるでしょう。
ちなみに、第5号で「その後援団体も」にある、追加を意味する係助詞「も」によって、3つの基準に分解できます。
ア)政治活動で会社その他の団体から寄付を受けない
イ)政治活動で政治的または道義的批判を受ける恐れのある寄付を受けない
ウ)後援団体は政治的または道義的批判を受ける恐れのある寄付を受けない
「取手新時代をひらく会」は藤井市長が代表を務める政治団体で、厳密にはウの「後援団体」に該当しないため、アとイに違反しているかが焦点になります。
アについては、Aさんからの寄付が収支報告書の「個人からの寄附」欄に記載されており、会社を対外的に代表する代表取締役であるとはいえ、「会社その他の団体」ではないため、形式的には違反していないと思われました。
個人寄付なのに住所欄に会社所在地
ここでまた立ち止まって考えました。収支報告書では、Aさんについて住所「稲敷市江戸崎…」、職業「代表取締役社長」とあるだけで、M社名は記載されていません。M社の代表取締役らしいということはネット検索によるものでした。ネット検索は怪しい情報が含まれいる場合も少なくありません。その上、茨城県南水道企業団ホームページ内にAさんの氏名は検索しても1件も出てきませんでした。そこで、M社の法人登記で厳密に確認することにしました。
1件につき332円かかりましたが、登記情報提供サービスを利用してM社の法人登記情報を入手しました。
入手した登記情報によると、M社の代表取締役は確かにAさんとなっていました。しかし、Aさんの住所は「稲敷市小羽賀…」と登記され、収支報告書の住所と異なっていたのです。よく見ると、収支報告書に記載されたAさんの「住所」は、M社の本店所在地として登記されていたのでした。
住所とはいうまでもなく「住んでいるところ。生活の本拠である場所」(『広辞苑』)です。収支報告書の個人寄付者の住所欄に住所ではなく、会社所在地を記載したのはなぜでしょうか。それも1カ所にとどまらず3カ所も。単なる記載ミスでしょうか。M社からの寄付だったものを「取手新時代をひらく会」で個人寄付に付け替えて記載した疑いも捨てきれません。
藤井市長自身も個人寄付をしていますが、取手市という地方公共団体を代表する市長職にあるからと言って、その住所欄に市役所所在地である取手市寺田5139と記載したりはしません。
企業献金に限りなく近い寄付
いろいろ推測はできますが、結論的に言えば、単なる一市民=個人からの寄付ではなく、稲敷市江戸崎に所在するM社の代表取締役という立場での寄付、すなわち企業献金に限りなく近い寄付であると受け止めざるを得ません。よって、アの「会社その他の団体から寄付を受けない」という基準に抵触している疑いが強く残ります。
落札受注直後に多額寄付、謝礼なのか
イの「政治的または道義的批判を受ける恐れのある寄付を受けない」という基準についてはどうでしょうか。
平成29年分の収支報告書で、Aさんは同年6月19日に99,000円を寄付したと記載されています。Aさんが代表取締役を務めるM社はその直前の5月31日、配水管布設替工事を910万円で落札し、6月9日にその工事を正式契約し、同日着工していることが企業団ホームページ内の入札結果資料や「平成29年度水道事業会計決算書」などから跡付けられます。
1カ月にも満たない間に落札→契約→着工→寄付と続けば「工事受注の謝礼」としての寄付であると推認できます。紛れもなく「政治的または道義的批判を受ける恐れのある寄付」と言えます。
以上の通り、藤井市長が代表を務める「取手新時代をひらく会」がAさんから寄付を受領したことは取手市政治倫理条例の政治倫理基準に違反する疑いが強いと感じ、調査を請求することに決めました。
調査請求書作成し10月25日書留郵送
調査請求の方法は取手市政治倫理条例施行規則で「調査請求書(様式第7号)により行うものとする」と定められています。
しかし、調査請求書のひな型は取手市役所ホームページに掲載されておらず、まして「市民の調査請求権」の解説もありません。このため、政治倫理条例関連を担当する市総務課に調査請求書のテンプレートを送付するよう、市役所ホームページ内の問い合わせフォームから依頼しました。Wordファイル形式のテンプレートがメール添付で送られてきました。せっかく頂いたので、下記にアップします。積極的にご活用ください。
調査請求書は2021年10月25日付で作成し、各種資料とともに印刷し、簡易書留で市総務課宛に郵送し、翌26日に配達されました。
総選挙の準備で忙しいのでしょうか、調査請求書を受領したとの連絡はありません。動きがあれば、逐次アップします。